大学生になって初めての連休に平泉に行った。一人で遠くへ行くのは,それが初めてだった。自由の喜びにわくわくしていた。
平泉で「高館」という表示を見て,歩を進めた。
まづ高館にのぼれば,北上川南部より流るる大河なり。衣川は,和泉が城をめぐりて,高館の下にて大河に落ち入る。秀衡らが旧跡は,衣が関を隔てて南部口をさし固め,夷を防ぐと見えたり。さても,義臣すぐってこの城にこもり,功名一時のくさむらとなる。
国破れて山河あり,城春にして草青みたり
と,笠うち敷きて,時の移るまで涙を落とし侍りぬ。
芭蕉の「奥の細道」のこの景色が広がった。
芭蕉は,ここでこの景色を見たのだろうか。
ほかには誰もいなかった。
しばらくそこで若葉を揺らす風の音だけを聞いていた。
中尊寺にもほとんど人はいなかった。
とすると,連休の合間の平日だったのだろうか。
平日の大学の休講日?
なぜあの観光地に人がいず,静かだったか,理由はもう記憶していない。
神主さんが声をかけてきた。
大学生だと言うと,巫女のアルバイトをしないかとスカウトされた。
正月など人手が足りないということだったのだろう。
深い意味はない。
でも,必要とされたことが,うれしかった。
自由な自分で歩く日々がスタートしたばかりだった。