母は私を兄と男女の差別なく育ててくれた。別の言い方をすれば、男の子のように育ててくれた。小学校五年生までの私は、髪はベリーショートで、よく男の子とまちがえられた。母からは「女の子だから」という言葉を聞いたことがない。なぜだったのかはわからない。母は女だからと悔しい思いをしたことがあるのかもしれない。そのあたりの真相は聞いたことがない。
「女の子」として育てられなかった私は、家事一切も教えられなかった。勉強しろと言われたこともないが、同様に手伝いをしろとも言われなかった。そのため、学校の調理実習以外で台所に立ったことはなかった。
大学生になって家を離れた私は、最初の一年は食事の出る大学の寮に入った。だから生活上は自炊ができないことに困りはしなかった。しかし、サークル活動の中で、調理をすることになった。18歳にもなって私は、卵を割ることさえできなかった。
そしてサークルでのカレー。私は大好きなカレーを作ることができなかった。じゃがいもの皮を剥くという高度なワザなどあり得ない状態だったのである。恥ずかしい思いをしたことは言うまでもない。
それから何年も経って、まあまあ家族に我慢して食べてもらうくらいの調理はできるようになった。