子供のころからカレーが好きだった。どんなカレーだったかは覚えていない。甘口ではなかったと,なんとなく思うことと,黄色いカレーではなかったはずだと,うすぼんやりとしたイメージがあるだけだ。ただ,とにかく好きで,おいしくて,お腹いっぱい食べていたと思う。
そして,カレー粉は,たぶん「印度カレー」。ターバンを巻いたインド人らしき男性の写真が載っている箱を使っていたような気がする。「インド人もびっくり」って,キャッチフレーズがあったっけ。父は,「これが本格的なカレーだ」と,言っていたような言っていなかったような。すべては,50年以上前の不確かな記憶だ。父の言葉も,二十数年前に亡くなった父のイメージから勝手に私が作り出したものかもしれない。カレー粉もキャッチフレーズも,時代はずれていて別のものかもしれない。
確かだと思える記憶は,私がカレーのおかわりがなくなると,鍋の底に残っているカレーをスプーンですくって,きれいに食べてしまっていたこと。鍋を抱えて,みごとに空になるまで底をすくうのである。今思うと,なんと行儀の悪いことか。母は,よく許してくれたものだと思う。戦争時代を経験した母にとって,わずかでも食べ物を残さないということが良いことであったか,それとも私が言い出すときかなかったことであきらめたのか。叱られた覚えはない。子どもの頃の幸せなカレーの記憶だ。